前回は、脂肪が体へ信号を出しているとお話ししました。では、日々の暮らしで何を変えればいいのでしょうか。食事、運動、睡眠。そして、続けるための記録を見ていきます。
「3%」は、誰に向けた数字か
まず、減量の数字は、どなたにでも当てはまるものではありません。健診で体重やお腹まわりを指摘された方に向けた話です。日本肥満学会のガイドラインでは、BMIが35未満の肥満症について、3〜6か月で今の体重の3%以上を減らすことを最初の目標にしています。痩せている方へ、さらに体重を減らそうという意味ではありません。
日本で肥満症またはメタボリックシンドロームと判定された3,480人を調べた2014年の研究があります。参加者の平均BMIは27.7でした。減量が3%以上の群では、中性脂肪、血糖、肝臓の数値、血圧など、11の検査項目に改善が見られました。一方、1%以上3%未満の群で改善が見られたのは、そのうち7項目です。これは、この研究の集団で見られた変化で、誰もが同じ結果になるという意味ではありません。
3%はゴールではなく、入口です。どう続け、減ったあとにどう戻さないかが大切です。そして、体重を減らす必要のない方にとっては、筋肉を落とさないことが大事な話になります。
Q. 体重が標準的でも、「3%」を目指したほうがよいですか?
A. いいえ。ここで紹介した目標は、本文にある対象へ向けたものです。数字だけを切り取って誰にでも当てはめると、体重を減らす必要のない人まで減量を始めてしまいます。あなたがまず確かめたいのは、自分がその目標の対象なのか、健診で何を指摘されたのかです。痩せている方は、筋肉を保つという別の課題に目を向けてください。
研究で検査項目が改善したという結果も、一人の未来を約束する数字ではありません。地図に「ここから先は坂道」と書いてあっても、歩く人の足取りが同じとは限らないのに似ています。研究の集団と、あなた自身の体を区別して読みましょう。
食べる順番を変える
食事では、まず野菜とたんぱく質を食べ、ごはんやパンをあとにする方法があります。野菜やたんぱく質が先に入ることで、胃から食べ物が出る速さが変わり、腸からはインスリンの分泌を助けるホルモンが出ます。水に溶ける食物繊維も、糖が吸収される速さに関わります。
ただし、これは食後の血糖の上がり方の話です。食べる量が同じなら、順番を変えるだけで体重が減るわけではありません。食物繊維をとるなら、野菜、きのこ、海藻、豆など、ふだんの食事から考えられます。
たとえば、いつもの定食を思い浮かべてください。皿の中身を急に入れ替えるのでなく、野菜のおかずやたんぱく質のおかずに先に箸を伸ばし、そのあとごはんを食べる、という考え方です。順番に気を取られて食事全体の量を見なくなると、この記事の目的から外れてしまいます。食べる順番は、食後の血糖の話として受け取ってください。
Q. 野菜を先に食べれば、好きなだけ食べてもよいですか?
A. そうではありません。食べる順番だけで体重が減るわけではない、と本文でお伝えしたとおりです。順番は食事全体を整えるときの一つの工夫です。「何を、どれだけ食べているか」という問いまで消してしまう魔法ではありません。
たんぱく質は、減らさない
体重を落とすときに、筋肉まで落としたくはありません。そのために、食事の量だけを見ず、たんぱく質をとれているかにも目を向けます。朝食なら、ごはんに焼き鮭、納豆、豆腐とわかめの味噌汁といった、特別ではない組み合わせでも考えられます。
痩せている方も同じです。前回までにお話ししたように、筋肉は糖を引き受ける大切な場所です。体重をさらに減らすことより、筋肉を保つことを考えてください。腎臓の治療を受けている方は、たんぱく質を制限されている場合があります。主治医の指示を優先してください。
朝食の例なら、いつものごはんに納豆を添える、味噌汁に豆腐を入れる、といった形で考えられます。新しい特別な食品を探さなければ始められない、という話ではありません。食事を減らすことだけを目標にすると、体重計の数字が動いても、筋肉を守るという目的を忘れがちです。
Q. たんぱく質なら、たくさん増やしてよいのでしょうか?
A. この記事は、量を一律に増やすよう勧めているわけではありません。特に腎臓の治療を受けている方は、本文の注意書きどおり主治医の指示を優先してください。大切なのは「たんぱく質を減らさない」という見方と、ご自身の治療や食事全体を合わせて考えることです。
食べない時間を作る。ただし、極端にしない
朝から晩まで少しずつ食べ続けると、インスリンが下がる時間を作りにくくなります。夜遅い食事を見直し、食べない時間をまとまって作ることも一つの方法です。何時間空ければよい、と一律の数字を決める話ではありません。
同じように、極端な糖質制限も避けたいところです。糖質を極端に減らすと、体は筋肉のたんぱく質を分解して糖を作ることがあります。最初に体重が減っても、守りたい筋肉まで減らしては困ります。糖質を少しも調整してはいけない、という話ではありません。また、「これだけ食べればよい」という方法より、食事全体を整えて続けることが大切です。
たとえば、夜遅くまで何かをつまむ習慣があるなら、「何時間断食するか」を先に決めるより、食事の区切りを見直すところから考えられます。時計の数字に合わせることが目的ではありません。生活や治療の事情がある人もいますから、無理に食事を飛ばす話として受け取らないでください。
Q. 糖質を減らすほど、早くよくなりますか?
A. 本文は、極端に減らしたときに筋肉まで減る可能性を説明しています。体重の数字が早く動くことと、守りたい筋肉を保てることは別です。食事の一部分だけを敵にするより、続けられる食事全体を考えましょう。
運動は、筋肉を守るために
運動の意味は、消費したカロリーだけでは測れません。食事だけで体重を落とすと、脂肪と一緒に筋肉も減りえます。だから、筋肉を使うことが大事になります。
まとまった運動が難しければ、座り続ける時間を区切るところからでも始められます。食後に歩く、立ち上がる、家事をする。日常の動きも運動につながります。筋肉は、動かすことで体へ信号を出す組織でもあります。
「運動する時間がない」と感じる日もあるでしょう。たとえば、長く座って作業したあとに立って家事をする、食後に歩くなど、本文で挙げた日常の動きから考えられます。大きな予定を新たに入れることだけが、筋肉を使う方法ではありません。消費カロリーの数字ばかり追うと、この「筋肉を守る」という理由を見落とします。
Q. 体重が変わらなければ、動く意味はないですか?
A. 体重の数字だけで、筋肉を使った意味は決められません。この記事で運動を取り上げるのは、食事だけで体重を落とすと筋肉も減りうるからです。数字の変化を急ぐより、日常で体を動かす機会を続けられるかを考えてください。
睡眠と記録も、実践の一部
前回出てきたレプチンは、満腹を伝えるホルモンでした。睡眠が足りないと、この合図が弱まり、空腹を伝える合図は強まります。寝不足の日に食べたくなるのを、意志の弱さだけで片づけられません。少人数を調べた研究では、同じ食事制限でも、睡眠が短いと脂肪の減り方が小さく、筋肉などの減り方が大きくなりました。
最後は、体重を記録することです。グラフにすると、日ごとの上下に振り回されず、変化を見られます。測るだけで痩せるという意味ではなく、続けるための道具です。体重を落とす必要のない方は、知らないうちに減っていないかを確かめるためにも使えます。
食事、運動、睡眠、そして記録。どれも、筋肉を落とさずに暮らしを整えるための話です。
記録は、成績表よりも日記に近いものです。昨日と今日の差だけを見て一喜一憂するのではなく、続けて眺めて初めて変化に気づけます。もし記録が自分を責める材料になっているなら、何のために測っているのかを思い出してください。体重を減らす必要のない方には、思いがけない減少に気づくという使い方もあります。
食事の順番、たんぱく質、座る時間、睡眠、記録。全部を一度に完璧にしようとすると、かえって続きません。あなたの暮らしで見直しやすい場面を一つ思い浮かべ、その工夫が続けられるかを確かめてみてください。
今日のまとめ
- 3%の減量目標は、BMI35未満の肥満症に向けたものです。痩せている方に当てはめる数字ではありません。
- 野菜とたんぱく質を先に食べる方法は、食後の血糖の上がり方に関わります。順番だけで痩せるわけではありません。
- たんぱく質をとり、極端な糖質制限を避けて、筋肉を守ります。
- 日常の動きと睡眠を大切にし、記録を続ける道具として使います。
出典
- 日本肥満学会『肥満症診療ガイドライン2022』(BMI35未満の肥満症の減量目標、グラフ化体重日記)。
- Muramoto A, et al. “Three percent weight reduction is the minimum requirement to improve health hazards in obese and overweight people in Japan.” Obesity Research & Clinical Practice, 2014. PubMed(肥満症またはメタボリックシンドロームと判定された人の減量と検査項目)。
- 食べる順番と食後血糖に関する研究・総説。Diabetes Care 36巻5号、2013年;Frontiers in Endocrinology, 2019年;水溶性食物繊維に関する研究。
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」原文(たんぱく質、食物繊維)。
- 矢作直也「三大栄養素:脂質・糖・タンパク質間のエネルギーフローの調節機構」『化学と生物』60巻6号、2022年。原文
- Pedersen BK, Febbraio MA. “Muscles, exercise and obesity: skeletal muscle as a secretory organ.” Nature Reviews Endocrinology, 2012. PubMed
- Buffey AJ, et al. 座る時間を歩行や立位で中断することと食後血糖に関する総説。Sports Medicine, 2022。
- Spiegel K, et al. 睡眠不足と食欲に関わるホルモンの研究。Annals of Internal Medicine, 2004。
- Nedeltcheva AV, et al. 睡眠時間と減量中の体組成に関する小規模研究。Annals of Internal Medicine, 2010. 原文
この記事は、健康に関する一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状のある方、治療中の方は、かかりつけの医師にご相談ください。