これまで、内臓脂肪やインスリン抵抗性、動脈硬化の話をしてきました。では、毎日の暮らしの中で、血管のためにできることはあるのでしょうか。今回は、日本人に身近な「お風呂」を調べた研究を見ていきます。
毎日入る人と、週に数回の人を比べると
2020年に医学誌『Heart』に発表された研究では、心血管疾患やがんの既往がない40〜59歳の日本人30,076人を、1990年から2009年までの19年間追跡しました。調べたのは、浴槽に浸かる頻度と、その後の心血管疾患との関係です。
ほぼ毎日湯船に浸かる人は、週0〜2回の人に比べ、心血管疾患の発症リスクが相対的に28%低いという関連が見つかりました。研究で示された値は、ハザード比0.72、95%信頼区間0.62〜0.84です。比べているのは、シャワーだけの人全員ではなく、「浴槽入浴が週0〜2回」の人たちです。
数字だけを見ると、「毎日入浴すれば、病気を防げる」と言いたくなります。ですが、ここは立ち止まるところです。
ここでいう「ほぼ毎日」と「週0〜2回」は、研究の中で比べたグループです。たとえば、友人同士で「毎日湯船に入る人のほうが、健康そうだ」と感じても、その印象だけでは、入浴の影響か、もともとの暮らし方の違いかは分かりません。研究は多くの人を長く追って関係を調べていますが、それでも入浴だけを取り出して比べた実験ではないのです。
Q. 「28%低い」とは、私のリスクが28%減るという意味ですか?
A. そうではありません。本文の数字は、研究に参加した人を、浴槽に浸かる頻度で分けて比べたときの相対的な差です。あなたが今日から入浴回数を変えたら同じ差が出る、という予測には使えません。集団で見えた関係と、一人に起こる変化は分けて受け取ってください。
「関連」と「原因」は違います
この研究は、人々の普段の生活を追った観察研究です。入浴の回数を研究者が割り当てた実験ではありません。ですから、入浴が原因でリスクを下げたとは断定できません。
毎日湯船に入る人とそうでない人では、住まいや健康状態、食事、運動、医療を受けやすい環境などにも違いがあるかもしれません。研究は複数の条件を考慮していますが、すべての違いを取り除くことはできません。
この数字は、一人ひとりの将来のリスクが28%下がるという約束でもありません。言えるのは、この集団では、ほぼ毎日の浴槽入浴と心血管疾患が少ないこととの関連が見つかった、ということです。
たとえば、同じ町で、よく図書館へ行く人のほうが健康だったとしましょう。だからといって、図書館へ行くことだけが健康の原因とは決められません。歩いて行く習慣があるのかもしれませんし、時間の余裕や、もともとの健康状態が違うのかもしれません。入浴の研究も、こうした「一緒に起きている別の違い」を考える必要があります。
Q. 研究が条件を考慮したなら、原因と考えてよいのでは?
A. 条件を考慮することは大切ですが、測れなかった違いまで消せるわけではありません。たとえば、同じ「毎日入浴」でも、その人の暮らし全体は一人ひとり違います。研究が教えてくれるのは、今回の集団では入浴習慣とその後の病気の少なさが結びついて見えた、というところまでです。
温めると血管では何が起こるのでしょうか
体が温まると血管が広がり、血流の変化に応じて血管の内側から一酸化窒素、NOが出ることなどが、関係する可能性として考えられています。温熱によってヒートショックプロテインが増える、という説明もあります。
ただし、今回の観察研究は、その仕組みを直接証明していません。お湯の熱がどの経路を通って、心血管疾患の発症にどれほど影響したかは、この結果だけでは分かりません。
血管の機能を調べた別の温熱療法の研究もあります。しかし、そちらは通常の家庭のお風呂よりも強い温熱を、研究者が管理して与えた実験です。普段の入浴と同じ効果があるものとして、数字を混ぜることはできません。
血管が広がる、NOが出る、という説明を読むと、体内で何が起きたかを全部見届けたように感じるかもしれません。けれど、この研究で主に追ったのは、日頃の入浴頻度と、その後の病気です。考えられる道筋と、その道筋を今回の研究が実際に確かめたかどうかは、別にしておきましょう。
Q. 温熱療法の研究があるなら、家庭のお風呂でも同じですか?
A. 同じとまでは言えません。研究者が温度や時間を管理して行う温熱療法と、日常の入浴は条件が違います。料理でも、同じ「温める」という言葉が、少し温める場合と長く加熱する場合を一つにはできないのに似ています。家庭のお風呂に、別条件の実験で見えた効果をそのまま移さないでください。
今日からできる小さな習慣として
食事や運動をいきなり大きく変えるのは、難しいこともあります。湯船に浸かることがすでに生活にある方なら、その習慣に目を向けるのは小さな一歩かもしれません。
一方、この研究の対象は研究開始時に40〜59歳だった人たちです。心臓の病気がある方や高齢の方に、熱い湯や長風呂を勧める根拠にはなりません。治療中の方は、入浴について主治医の指示を優先してください。
お風呂だけで内臓脂肪や動脈硬化が変わる、と約束できる研究ではありません。それでも、ふだんの暮らしと血管の健康とのつながりを考える、興味深い手がかりです。
「小さな習慣」といっても、毎日必ず湯船に入る目標を立てる必要はありません。すでに入浴が暮らしにある方なら、その時間をどう受け止めるかを考えるきっかけになります。治療中の方は、本文にあるように主治医の指示を優先してください。研究の対象者と自分の状況が同じかどうかも、落ち着いて見ておきたいところです。
Q. シャワーだけでは、血管に悪いのでしょうか?
A. この研究からは、そうは言えません。比較したのは浴槽入浴の頻度が異なる人たちで、シャワーだけの人全員を対象にして優劣を決めたわけではありません。お風呂と血管の関係を考える材料にはなりますが、「湯船に入らない日があるから危険」という判定には使えないのです。
Q. 毎日の入浴を、食事や運動の代わりにできますか?
A. この記事で紹介した研究は、入浴だけで内臓脂肪や動脈硬化が変わると約束するものではありません。これまで見てきた食事や運動の話と並べて、暮らしの一場面として考えてください。あなたが入浴の習慣を振り返るときも、「一つの行動で血管の問題が全部解決する」と考えなくて大丈夫です。
研究の数字を読むときは、「誰を比べたか」「何を確かめたか」「何はまだ分からないか」の順で見ると、無理なく意味をつかめます。今回なら、日本人の特定の年齢層で、浴槽に浸かる頻度と心血管疾患との関連を調べた、ということです。あなたの日々のお風呂を見直すときも、この範囲を忘れずに使ってください。
Q. 研究の結果を読むとき、何を先に確認すればよいですか?
A. まず、誰が調べられたかを見ます。今回なら、研究開始時の年齢や既往歴が本文に示されています。次に、何と何を比べたかを見ます。「ほぼ毎日」と「週0〜2回」という浴槽入浴の頻度です。そして最後に、何が分かったかを確認します。見つかったのは、心血管疾患との関連でした。この順で読むと、「誰にでも同じ効果がある」という話に広げずにすみます。
たとえば、「毎日湯船に入っているから、ほかの生活は気にしなくてよい」と考えたくなっても、研究はそこまで示していません。入浴は、あなたの暮らしの一場面です。食事、運動、治療の方針なども、その人ごとの事情があります。研究の数字を生活に取り入れるときは、数字を命令のように受け取らず、どんな範囲で得られた結果かを確認してください。
Q. すでに毎日入っている人なら、病気の心配はないですか?
A. いいえ。集団で病気が少なかったという関連は、個人の病気が起こらないという保証ではありません。反対に、入浴の頻度が少ない人について「必ず病気になる」とも言えません。この研究の数字を、あなた自身の診断や将来の確約に置き換えないことが大切です。
今日のまとめ
- 2020年の日本人30,076人を19年間追った研究では、ほぼ毎日の浴槽入浴と心血管疾患が少ないこととの関連が見つかりました。
- 週0〜2回の人と比べた相対的なリスク差は28%でした。観察研究なので、入浴が原因でリスクを下げたとは言えません。
- 血管が広がることなどは仕組みとして考えられますが、この研究が仕組みを証明したわけではありません。
- 普段のお風呂を、強い温熱療法の実験と同じものとして扱わないことが大切です。
出典
- Ukai T, et al. “Habitual tub bathing and risks of incident coronary heart disease and stroke.” Heart, 2020年。日本人30,076人、1990〜2009年追跡。ほぼ毎日対週0〜2回の総心血管疾患のハザード比0.72(95%信頼区間0.62〜0.84)(PMID: 32209614)。PubMed
- Brunt VE, et al. 温熱療法と血管機能に関する別条件の研究、The Journal of Physiology, 2016年。40.5℃、60分、週4〜5回の管理された温熱療法であり、通常の家庭入浴とは区別する(PMID: 27270841)。PubMed
この記事は、健康に関する一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状のある方、治療中の方は、かかりつけの医師にご相談ください。