前回は、インスリンが効きにくくなると、膵臓がより多くのインスリンを出して補うこと、そして肝臓に脂肪がたまることをお話ししました。今回は、その先に現れる食後の血糖の変化と、血管との関係を見ていきます。
朝の採血では見えない山
健康診断では、朝、食事をとらずに血糖を測ることがあります。これは空腹時血糖です。ところが、空腹時の値は通常の範囲でも、食後には血糖が大きく上がる方がいます。上がってから下がる様子が、とがった山に見えるため、「血糖値スパイク」と呼ばれます。
食後に血糖が上がること自体は、誰にでも起こります。山が一度見えたら病気、という意味ではありません。気にしたいのは、高いところまで上がる状態や、長く高いままの状態が続いていないか、ということです。空腹時だけの採血では、食後の山は分かりません。
一日の血糖を、山道の断面図のように想像してみてください。朝の採血は、道のある一点を写した写真です。その写真だけでは、昼食のあとにどんな坂を上ったか、頂上付近にどれほどいたかまでは分かりません。食後の山を考えるのは、朝の結果を否定するためではなく、写真に写っていない時間にも目を向けるためです。
「食べたら上がる」と「上がり方を気にする」を混同しないことも大切です。食後の変化をすべて危険と呼べば、誰でも不安になってしまいます。一方、空腹時が通常の範囲だから食後も同じだ、と決めれば、別の時間帯の変化を見落とします。片方の測定を、もう片方の代わりにしないでください。
「食後の眠気はスパイクのせい」でしょうか
食後に眠くなると、「血糖値が急に上がって下がったから」と聞くことがあります。私もそう思っていました。けれど、一次研究を確かめると、食後の眠気を血糖値スパイクの証拠とする根拠は足りません。
朝食の内容を比べた小さな実験では、炭水化物が多い食事のほうがインスリンは多く出ていました。それでも、眠気や疲労感が強かったのは脂質の多い食事のあとでした。別の研究では、昼食を一度に食べず、栄養を小分けにとっても、昼過ぎの眠気が見られました。昼過ぎには体内時計に沿った眠気も起こります。食事の量や前夜の睡眠なども関わるため、「眠いから食後高血糖」とは決められないのです。
ただし、強い眠気を放っておいてよい、という話ではありません。毎食後、仕事や生活が止まるほど眠い状態が続くなら、血糖以外も含めて調べる理由になります。糖尿病、睡眠時無呼吸、貧血、甲状腺の病気などが関わることもあるので、医療機関に相談してください。
Q. 昼食後に眠くなりました。血糖の検査を急ぐべきですか?
A. 眠気だけから血糖の状態を決めることはできません。前夜の睡眠や昼過ぎの体内時計、食事の内容など、本文で見た別の説明もあります。たとえば、会議中に眠くなった事実だけでは、その原因が一つに絞れないのと同じです。ただし、生活が止まるほどの強い眠気が毎食後に続くなら、「血糖のせいに違いない」と自己判断するより、医療機関で相談してください。
下がって元に戻るなら、よいのでは
食後に上がっても、あとで下がる。ならば問題は残らないのでは、と考えたくなります。私もそう思いました。
ここで元に戻るのは、血液の中の糖の量です。高い血糖にさらされた間に、血管の内側に起きた変化まで、血糖の数字と同時に元通りになるわけではありません。高血糖では、細胞の中で活性酸素が増え、酸化ストレスを通じて血管の内側の働きを損なうと考えられています。
ただし、一度の食後の山で、消えない傷が必ず残ると言い切ることもできません。血管には傷んだところを修復する働きもあります。気にしたいのは、高い血糖にさらされることが繰り返され、その影響に修復が追いつかなくなる可能性です。血糖が戻ったという一点だけで、血管への影響までなかったことにはできません。
ここは、雨がやんだあとの道路に似ています。いま雨が降っていないことと、道路に水が残っていないことは別です。ただし、雨が一度降っただけで必ず道路が傷む、というたとえでもありません。血糖が元の数字に戻ることと、血管の内側で起きた変化を評価することは、別の問いだと覚えておきましょう。
速さより、高さと時間、そして年数
「急に上がるのが悪く、ゆっくり上がれば安全」と説明されることがあります。しかし、上がる速さだけで血管への影響を判断することはできません。大事なのは、どこまで高くなり、どれほど長く続き、その状態をどれほど長い年月重ねるかです。
血糖を大きく上下させた実験はありますが、その条件を、ふだんの食事の小さな山へそのまま当てはめることはできません。「急に上がってすぐ下がる山」だけを悪者にすると、長く高いままの状態を見落とします。
食後の血糖を調べる意味も、山の形だけを怖がるためではありません。欧州の研究では、糖を飲んだ後の血糖値が、空腹時血糖よりも、その後の総死亡や心血管死をよく予測したと報告されています。これは将来の病気との関連であり、食後の山だけが原因だと証明したものではありません。
前回お話ししたインスリン抵抗性は、食後の血糖が高くなる前から始まることがあります。食後の高い血糖は、糖を引き受ける働きが追いついていないことを知らせる、体からの表示でもあるのです。
Q. 「急上昇」を避けられれば、それだけで安心ですか?
A. 山の斜面が緩やかでも、高い場所に長くとどまることはあります。逆に、形だけ見て一度の短い山を大きな病気と結びつけることもできません。本文の「高さ・続く時間・積み重なる年数」を一緒に考えるのは、そのためです。上がる速さだけを合格・不合格の線にしないでください。
女性は、体重が同じでも中身が変わる
血管の変化は、男女で同じ時期に進むわけではありません。1994年に健康な男女を調べた研究では、血管が広がる力は男性では中年期から低下し、女性では50代前半までは比較的保たれ、その後の低下は男性の約2倍の速さでした。これは集団で見た傾向です。一人ひとりの血管が同じ速度で変わるわけではありません。
更年期前後には、体重計の数字が大きく変わらなくても、脂肪のつく場所が皮下からお腹の中へ移ることがあります。米国心臓協会の声明も、この時期の体組成や血管の変化は、年齢だけでは説明しきれないとしています。
「体重は変わっていないから大丈夫」と決めず、健診の血糖、血圧、脂質、腹囲を見ておきたい時期です。
たとえば、同じ重さの旅行かばんでも、中に入っている物の種類や置き方は違います。体重計の数字も、脂肪がどこについたかまでは教えてくれません。更年期前後の話は、体重を毎日怖がるためではなく、同じ数字の裏に別の変化がありうると知るための話です。健診の項目を一つずつ別々に見るだけでなく、まとめて振り返る材料にしてください。
血管の内側で起こること
動脈硬化は、血糖だけで決まるものではありません。高血圧、脂質の異常、喫煙など、いくつもの要因が血管の内側に負担をかけます。
血管の内側の働きが損なわれると、LDLコレステロールが壁の中に入り、そこで酸化されたものがたまっていきます。炎症に関わる細胞も集まり、壁の中にこぶのようなプラークができます。プラークが大きくなれば、血液の通り道は狭くなります。
さらに、プラークが破れると、その場所に血のかたまり、血栓ができます。血管を塞げば、脳では脳梗塞、心臓では心筋梗塞につながることがあります。これが、動脈硬化の先で起こりうることです。誰もがこの順番を必ずたどる、という意味ではありません。
私が脳梗塞で倒れた日も、朝まで痛みはありませんでした。だからこそ、症状が出る前の血圧や血糖、脂質の変化を、健診で確かめておくことに意味があります。次回は、この流れの上流にある内臓脂肪が、体の中でどんな働きをしているのかを見ていきます。
Q. 血糖だけ整えれば、動脈硬化を防げますか?
A. 血管の内側には、本文で挙げた血圧、脂質、喫煙なども関わります。複数の道から荷物が一か所へ集まる交差点を思い浮かべてください。一つの道だけを見ても、交差点全体の混み具合は分かりません。食後の血糖は大切な手がかりですが、血管について考えるときには、ほかの健診結果や生活習慣も合わせて見ていきましょう。
プラークや血栓という言葉は怖く聞こえるかもしれません。しかし、この記事で伝えたいのは、食後の眠気や一度の食事から将来を決めることではありません。症状がない時期にも確認できる血圧、血糖、脂質を、あなた自身の体を知る手がかりとして使うことです。
今日のまとめ
- 空腹時血糖が通常の範囲でも、食後だけ血糖が大きく上がることがあります。
- 食後の眠気だけで血糖値スパイクとは判断できません。強い眠気が続くなら医療機関に相談してください。
- 血糖の数字が戻っても、血管への影響まで同時に消えたとは言えません。一度の山で傷が必ず残るとも言い切れません。
- 上がる速さだけでなく、高さ、続く時間、積み重なる年数を考えます。
- 更年期前後は体重が同じでも脂肪のつく場所や血管の状態が変わりえます。動脈硬化は複数の要因が関わって進みます。
出典
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」原文
- Wells AS, et al. 食事内容と食後の眠気を比べた研究、Physiology & Behavior, 1997年(PMID: 9145937)。PubMed
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- Brownlee M. 高血糖と酸化ストレスによる合併症の機序に関する総説、Diabetes, 2005年(PMID: 15919781)。PubMed
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この記事は、健康に関する一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状のある方、治療中の方は、かかりつけの医師にご相談ください。