前回、肥満と肥満症は違うという話をしました。
では、そもそも「太る」というのは、体の中で何が起きていることなのでしょうか。
今日はそこをお話しします。
なぜ、人間は脂肪を貯めるのか
まず、ひとつお聞きします。
人間の体は、なぜ、わざわざ脂肪を貯めるのでしょうか。
太るのが体に悪いなら、貯めなければいい。
でも、そうなっていません。
蓄えた脂肪は、食べものが手に入らないときのエネルギー源になります。
脂肪は、故障ではありません。よくできた仕組みです。
ただ、食べものが余る時代に、追いついていないだけなんです。
前回、日本肥満学会が「肥満は自己責任という考え方は誤り」としていることをお伝えしました。体の仕組みの側から見ても、同じことが言えます。あなたの意志が弱いから脂肪が貯まるのではありません。貯まるようにできているんです。
太る、とは

では、太るというのは、どういうことか。
脂肪を貯めておく場所を、倉庫と呼ぶことにします。
倉庫は、入れるだけの場所ではありません。出し入れの、両方をしています。
食事のあとは、入れるほうが優先されます。
食事と食事のあいだや、寝ているあいだは、出して、燃やしています。
入れた量より、出した量が少ない日が続く。そうすると、残高が増えていきます。
太るというのは、これです。
食べた脂肪が、そのまま身についているわけではありません。出し入れの、差し引きなんです。
では、痩せるとは
逆に、痩せるというのは。
残高を、減らすことです。
入れる量を減らすか、出す量を増やすか。やることは、そのどちらかしかありません。
ただ、ここで一つ、大きな疑問が出てくると思います。
「出す」「燃やす」というのは、いったい何のことなのか。
脂肪は、どこへ行くのか。
ここが、いちばん誤解されているところです。順番にお話しします。
糖は、たくさん置いておけない
ここで、インスリンというホルモンに登場してもらいます。
インスリンの仕事は、糖を細胞に入れることだけではありません。余った糖を、脂肪に変えて溜めるという仕事もしています。
ここで、当然の疑問が出てくると思います。
糖と脂肪は、まったく別の物ではないのか。
そのとおりです。別の物質です。ただ、体はこれを、作り変えることができます。
なぜ、そんなことをするのか。
糖は、たくさん置いておけないんです。
糖は、肝臓や筋肉にグリコーゲンという形で蓄えられます。グリコーゲンは、必要なときに使えるようにまとめておく糖のことです。ただし、糖を蓄えられる量には限りがあり、体格や筋肉量、食事や運動によって変わります。
入りきらない分は、脂肪という形に変えて、大きいほうの倉庫に移す。
このとき作られる脂肪を、中性脂肪といいます。
健康診断で見る、あの中性脂肪です。
脂肪の大部分は、糖には戻せない
脂肪の大部分を占める脂肪酸は、糖には戻せません。ただ、中性脂肪のもう一つの材料であるグリセロールは、糖の材料になります。
このように、脂肪の中でも材料によって流れは同じではありません。脂肪酸から糖を作ることはできない、という点が大切です。
では、脂肪は減らせないのか。
そんなことはありません。
脂肪酸を「糖に戻す」ことはできませんが、「燃やして使う」ことはできます。
これは、別のことなんです。
燃やす、とは何か

燃やす、というのは、脂肪をバラバラに壊して、エネルギーを取り出すことです。
そして、壊れた脂肪は、最後に何になると思われますか。
二酸化炭素と、水です。
二酸化炭素は、息を吐いて出ていきます。水は、汗や尿になります。
つまり、燃やした脂肪が体の外へ出ていく、主な出口は肺です。
汗をかいて脂肪が溶けるわけでも、便で出ていくわけでもありません。
どのくらいの割合か。研究では、中性脂肪10キログラムが分解されると、元の脂肪に由来する質量のうち8.4キログラム分は二酸化炭素の一部となり、1.6キログラム分は水になると計算されています。二酸化炭素には吸い込んだ酸素も加わるため、これは吐き出す二酸化炭素全体の重さではありません。
息をたくさん吐けば痩せる、という意味ではありません。先に体の中で脂肪が燃え、その結果として二酸化炭素が生じます。
体は、脂肪を出したがっている。ただし
さて、ここまでで「脂肪は燃やして減らせる」と申し上げました。
ところが、そこにブレーキをかけるものがあります。
またしても、インスリンです。
脂肪は、溜めっぱなしではありません。必要なときには倉庫から出して、燃やして使っています。
ただ、出すときには、いったんバラさないと外に出られない。これを分解といいます。
インスリンは、このバラす作業に、ブレーキをかけます。
考えてみれば、当たり前なんです。
インスリンが出るのは、食後ですから。食べたばかりのときに、貯金を切り崩す必要はない。体はそう判断します。理にかなっています。
ただ、インスリンが出っぱなしになると、どうなるか。
ブレーキが、かかりっぱなしになります。
正直に申し上げておきます

ここまで聞くと、ごはんを食べたら、そのまま脂肪になる、と思われるかもしれません。
そういう単純な話ではありません。
研究で分かっているのは、こういうことです。
食べた糖が、そのまま脂肪に作り変えられる量は、実はそれほど多くありません。
よほど食べ過ぎたとき以外は、体はその手間をかけないんです。
では、なぜ糖質を摂りすぎると太るのか。
入ってきた糖を、先に燃やすからです。
糖を優先して燃やすので、そのぶん、脂肪が燃やされずに残る。
つまり、糖が先に燃やされて、脂肪が減らなくなる。それだけではありません。摂取エネルギー、とくに糖質由来のエネルギーが消費量を上回る状態では、糖から新しく脂肪が作られる量も増えます。
結局は、入るエネルギーが使うエネルギーを上回る状態が続くと、体脂肪の残高が増えます。
クルマでいえば、こういうことです。二つのタンクがあって、片方のガソリンばかり先に使う。もう片方は、いつまでも減りません。
今日のまとめ
- 脂肪を貯める仕組みは、故障ではありません。蓄えた脂肪は、食べものが手に入らないときのエネルギー源になります。
- 太るというのは、倉庫の出し入れの差し引きです。食べた脂肪がそのまま身につくわけではありません。
- 脂肪酸から糖は作れません。中性脂肪のグリセロール部分は糖の材料になりますが、脂肪の大部分は燃やして使われます。
- 燃やした脂肪が体の外へ出ていく、主な出口は肺です。脂肪10キログラムなら、元の脂肪に由来する質量のうち8.4キログラム分が二酸化炭素の一部になります。息をたくさん吐くだけで痩せるわけではありません。
- 糖質で体脂肪が増えるのは、糖が先に燃やされて脂肪が減りにくくなるからです。それだけではありません。摂取エネルギーが消費量を上回れば、糖から脂肪が作られる量も増え、体脂肪の残高が増えます。
貯める仕組みそのものは、悪者ではありません。
問題は、残高が増えたあとに、何が起きるかです。
次回は、その話をします。
出典
- Knuiman P, et al. “Glycogen availability and skeletal muscle adaptations with endurance and resistance exercise” Nutrition & Metabolism, 2015
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4687103/
(糖が肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄えられ、その量には個人差があること)
- Genné-Bacon EA. “Thinking Evolutionarily About Obesity” Yale Journal of Biology and Medicine, 2014
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4031802/
(脂肪を蓄えやすい体だけが生き残ったという説明は、確定した事実ではなく仮説の一つであること)
- 矢作直也(筑波大学)「三大栄養素:脂質・糖・タンパク質間のエネルギーフローの調節機構」化学と生物 60巻6号 278-283頁、2022年(日本農芸化学会)
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1570
(脂肪酸から糖を合成できないこと)
- Meerman R, Brown AJ. “When somebody loses weight, where does the fat go?” BMJ 2014;349:g7257(PMID: 25516540)
https://www.bmj.com/content/349/bmj.g7257
(中性脂肪10kgの分解で8.4kgがCO2、1.6kgが水になること。肺が減量の主たる排出器官であること)
- Hellerstein MK. “De novo lipogenesis in humans: metabolic and regulatory aspects” European Journal of Clinical Nutrition 1999(PMID: 10365981)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10365981/
(摂取が総エネルギー消費量を超えないかぎり、糖から脂肪への変換は量的に重要なレベルにならないこと。糖質は全身の燃料の中で脂肪と置き換わること)
- 日本肥満学会『肥満症診療ガイドライン2022』(肥満は自己責任という考え方は誤りであること)
この記事は、健康に関する一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状のある方、治療中の方は、かかりつけの医師にご相談ください。