朝は時間がなくて、食事を抜くことがある。そんな方もいると思います。一方で、「朝食を抜くと脳卒中になりやすい」という話を聞いたことがあるかもしれません。日本人を長く追った研究には、その手がかりがあります。ただし、数字の読み方には注意が必要です。
日本人約8万人を追った研究
国立がん研究センターの多目的コホート研究、JPHC研究では、45〜74歳の日本人約8万人について、ふだん朝食を週に何回食べるかを調べました。1995年から2010年にかけて、平均約13年間追跡し、その後の脳卒中や心臓の病気との関連を調べた研究です。結果は2016年に医学誌『Stroke』で発表されました。
毎日朝食を食べる人と比べると、週0〜2回しか食べない人は、脳卒中全体の発症リスクが18%、脳出血の発症リスクが36%高いという関連が見つかりました。
一方、くも膜下出血、脳梗塞、虚血性心疾患には、統計的に明確な関連は見られませんでした。「朝食を抜くと、あらゆる脳や心臓の病気が増える」という結果ではありません。
「毎日」と「週0〜2回」を比べた数字を見る前に、あなた自身の一週間を思い浮かべてください。朝食をとる日が多いか、忙しい日に抜くことがあるか。研究は、そうした習慣の違いと、その後の病気との関係を調べました。昨日たまたま朝食を抜いた一日を採点するための研究ではありません。
Q. 脳卒中のリスクが18%高いなら、脳梗塞も増えたのですか?
A. そのようには読めません。本文にあるとおり、脳卒中全体では関連が見つかりましたが、脳梗塞には統計的に明確な関連は見られませんでした。「脳卒中」という大きな箱の結果を、箱の中のすべての病気にそのまま当てはめないでください。脳出血には関連が見られた、という違いも大切です。
Q. 18%高いとは、朝食を抜く人の18%が脳卒中になるという意味ですか?
A. いいえ。これは、毎日朝食を食べる人と比べた相対的な差です。一定期間に何人が発症したかを、単純に18%と示した数字ではありません。比較する相手が誰かを忘れると、数字の意味が大きく変わってしまいます。
朝食を抜くことが原因でしょうか
この研究は、朝食を食べるかどうかを研究者が決めた実験ではなく、普段の習慣を調べた観察研究です。したがって、朝食を抜いたこと自体が脳出血を起こしたとは断定できません。
たとえば、朝食を抜く人たちに喫煙する人、若い男性、所得の低い人が多く含まれていたとしたら、そうした背景も病気のリスクに関わるかもしれません。研究ではさまざまな条件を考慮しますが、測りきれない違いまでなくすことはできません。このように、二つの事柄の関係に別の要因が入り込むことを「交絡」といいます。
また、忙しさなどで朝食を食べられない人と、食事の時間を計画して調整している人とでは、生活の背景が違う可能性があります。この研究だけで、意図的な断食の是非まで判断することはできません。
たとえば、朝食を食べる人と食べない人を、二つの通勤グループとして考えてみてください。到着時間に差があっても、歩く道、出発する時間、交通手段まで違えば、「朝食だけ」が差を生んだとは言えません。本文に出てきた交絡は、こうした別の条件が結果と結びつくことです。研究が多くの条件を考慮しても、見えない条件が残る可能性があります。
Q. では、この研究は役に立たないのでしょうか?
A. そんなことはありません。大勢の人を長く追い、朝食を食べる頻度と脳卒中の一部に関連が見られたことは、暮らしを考える手がかりです。ただし、その手がかりだけで「朝食を抜いたから脳出血になった」と個人の原因を決めることはできません。関連を知ることと、原因を断定することは別です。
Q. 時間を決めて食事をとらない人にも、同じ結果が当てはまりますか?
A. この研究だけでは判断できません。本文でも、忙しくて朝食を食べられない場合と、計画して食事時間を調整する場合は、生活の背景が違うかもしれないとお伝えしました。朝食を抜くという表面上の行動が同じでも、理由や暮らし方まで同じとは限らないのです。
数字を、暮らしの見直しに使う
脳出血を考えるときには、血圧も大切な手がかりです。研究者たちは、朝食と朝の血圧の関係を一つの可能性として挙げています。ただし、この研究が「朝食を抜くと血圧が上がり、その結果、脳出血が起きる」という道筋を証明したわけではありません。
これまでの記事で動脈硬化や血圧の話をしてきました。朝食の研究も、毎日の暮らしと血管の健康を考える材料の一つです。ただ、「一度朝食を抜いたから危険」と考える必要はありません。ふだんの食事の取り方や、健診での血圧などを、落ち着いて確かめることが大切です。
血圧とのつながりは、研究者が考えた可能性の一つです。途中にありそうな道を描けることと、その道をこの研究で確かめたことは違います。地図に道が描かれていても、今回の調査でそこを実際に歩いたとは限らない、というイメージです。朝食と脳出血の間に血圧がどのように関わったかを、この結果だけで決めないでください。
Q. 朝食を抜いた日があれば、すぐに危険なのでしょうか?
A. この研究が調べたのは、ふだんの朝食の頻度と、長い追跡期間の病気との関係です。一度抜いた日の影響を測った結果ではありません。心配なときほど、一日の出来事から将来の病気を決めるのではなく、普段の食事や健診の血圧などを落ち着いて振り返ってください。
Q. 朝食を毎日食べれば、脳卒中を防げますか?
A. そう約束する結果でもありません。朝食以外の生活や健康状態も関わりえますし、この研究は食べるかどうかを割り当てた実験ではありません。あなたが朝食を見直すなら、「食べれば必ず防げる」と考えるより、無理なく続く食事の取り方と、血圧などの健診結果を一緒に見てください。
今回の数字は、怖がるための宣告ではなく、習慣を考えるための材料です。「誰と誰を比べたのか」「どの病気に関連が見られたのか」「原因まで分かったのか」と順に確かめると、研究の意味を取り違えずに読めます。
Q. 朝食を食べる頻度は、家族にも同じように当てはめてよいですか?
A. 研究で調べたのは、本文にある年齢層の日本人です。家族であっても、年齢や健康状態、暮らし方が同じとは限りません。研究に参加した集団で見えた関連を、家族一人ひとりの将来へそのまま移さないでください。生活を見直す話をするときも、「食べないと病気になる」と決めつけるより、本人の事情を確かめることが大切です。
朝が忙しいと、食事をとるかどうかを考える余裕さえない日があります。そんなとき、研究の数字を一日の失敗として受け取る必要はありません。本文で見たのは、普段の頻度と長い期間の結果との関係です。たまたまの一日と、いつもの習慣を分けて考えましょう。
Q. 健診で血圧に指摘がなければ、朝食の話は気にしなくてよいですか?
A. 血圧は、研究者が考えた可能性の一つですが、今回の研究が朝食から脳出血までの道筋を証明したわけではありません。健診の一項目だけで、朝食をとる習慣の意味を決めることもできません。あなたが見直せるのは、ふだんの食事の取り方と、健診結果をあわせて振り返ることです。
Q. 脳出血との関連があるなら、朝食を食べるように変えた人のリスクも下がりますか?
A. そこは、この研究からは分かりません。調べたのは、朝食を食べる頻度が違う人たちの、その後の病気です。途中で習慣を変えたときに何が起こるかを確かめた実験ではありません。「食べる人に病気が少ない」という観察と、「食べるように変えれば病気が減る」という予測は、似ていても別の問いです。
もし研究の記事を誰かに伝えるなら、病名も正確に伝えたいところです。脳卒中全体と脳出血には関連が見られましたが、脳梗塞などには明確な関連は見られませんでした。この違いを省いて「朝食で脳の病気を防げる」と短く言ってしまうと、研究の意味が変わります。数字を暮らしに使うには、数字の前後の言葉も一緒に読むことが必要です。
今日のまとめ
- 2016年に発表された日本人約8万人、平均約13年間の観察研究では、朝食が週0〜2回の人と脳卒中全体・脳出血のリスクが高いこととの関連が見つかりました。
- 毎日食べる人との比較では、脳卒中全体で18%、脳出血で36%高い値でした。脳梗塞などには明確な関連は見られませんでした。
- 朝食を抜くことが原因とは断定できません。喫煙や生活環境など、別の要因が関わる可能性があります。
- 朝食を抜く習慣と、計画して食事時間を調整することも、同じものとして扱えません。
出典
- Kubota Y, et al. “Association of Breakfast Intake With Incident Stroke and Coronary Heart Disease: The Japan Public Health Center-Based Study.” Stroke, 2016年。45〜74歳の日本人82,772人を1995〜2010年に追跡した観察研究(PMID: 26732562)。PubMed
- 国立がん研究センター「朝食の欠食と脳卒中との関連について」2016年。週0〜2回と毎日を比べた脳卒中全体18%、脳出血36%の差、および有意な関連が見られなかった疾患を解説。原文
この記事は、健康に関する一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状のある方、治療中の方は、かかりつけの医師にご相談ください。